皆様、お久しぶりです。弁護士の林です。
最近は暑い日が続いておりますが、体調はいかがでしょうか。
今回は、「相続開始後の出金と遺産分割の対象」につい
・・・(続きはこちら) 皆様、お久しぶりです。弁護士の林です。
最近は暑い日が続いておりますが、体調はいかがでしょうか。
今回は、「相続開始後の出金と遺産分割の対象」についてお話していきたいと思います。
1 想定事例
例えば、夫A、妻B、長男C、二男Dの4人家族がいた場合に、夫Aが亡くなったとします。
そして、妻Bが、相続開始後に夫Aの預貯金から、夫Aの葬儀費用や債務、遺産管理費用を支出した場合、その出金された財産については、遺産分割の対象となる財産に含まれるのでしょうか。
2 法律上の規定
相続開始後に出金がされた場合の原理、原則について、法律上は以下のような規定がおかれています。
(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
第九百六条の二 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
要約すると、①「相続人全員」が②「同意」した場合には、相続開始後に出金された財産も遺産分割の対象とすることが可能であり(同条1項)、この①「相続人全員」には、「処分をした者」を含めない(同条2項)と考えているということです。
これを「1 想定事例」に当てはめて考えてみると、葬儀費用や債務、遺産管理費用を支出した妻Bが同意しない場合であっても、長男Cと次男Dが同意をしている場合には、引き出した金銭も遺産分割の対象とすることができるという事になります。
3 裁判例上の調整
しかし、実際の裁判例では、妻Bのような「相続財産の処分を行った者」に同条2項の適用を否定し、同条1項の適用に関しては「相続財産の処分を行った者」の同意まで必要であるとした裁判例(東京高裁令和6年2月8日決定)があります。
その事案で重要な規範となったのは、被相続人と相続財産の処分を行った者との間で「(被相続人の)死亡後における相続債務の支払等の事務処理に関して委任契約又は準委任契約を締結しており、これに基づいて、被相続人の死後に預貯金を払い戻して同事務処理の費用に充てた場合」に該当するという点です。
このような場合に該当するときは、「相続財産の処分を行った者」の同意まで必要であると判断しました。
そして、このような場合に該当する要素として、
① 被相続人の生前に、被相続人と相続財産の処分を行った者との間で、被相続人の所有する財産管理等に関する今後の全ての意思決定を処分を行ったものに一人する旨の誓約書に署名押印がなされていること
② 相続財産の処分を行った者が被相続人の生前から現に財産の管理を行ってきたことをうかがわせる事情があること
を指摘しています。
4 結論
以上のような経緯から、相続開始後の出金を遺産分割の対象とできるか否かについては、被相続人と相続財産の処分を行った者との間でどのような契約関係ややりとりがあったのかという点が重要になってくるといえるでしょう。
それでは、また次回お会いしましょう。